先日、このブログで「高血圧→塩分悪者、は本当か?」を書いたとき、いくつかの参考文献を教えていただきました。
島田彰夫「食と健康を地理からみると―地域・食性・食文化 (人間選書)
島田彰夫「伝統食の復権―栄養素信仰の呪縛を解く
早速図書館に行ってみましたが、残念ながらうちの近所の図書館にはこの二冊は無く、代わりに同じ著者の次の本を借りてきました(図書館の蔵書には島田彰夫の本はこの一冊しかありませんでした)。
島田彰夫「食とからだのエコロジー―「食術」再考 (人間選書)
書庫にお蔵入りしていた本を引っ張り出してもらっている間、偶然にも見つけた次の本も借り出し。
知念隆一、新美久始「常識を破壊! これが正しい自然塩の選び方
「食とからだのエコロジー―「食術」再考 (人間選書)
「常識を破壊! これが正しい自然塩の選び方
ただ、塩というのはいろんな人がいろんなことを言っているようで、情報を集めるのならできるだけ多くの方向から集めたいという気持ちがあります。
そういえばわが家にも塩のことを書いてある本があったかも、と晩御飯の準備をほっぽってごそごそと本棚をかきまわす(読む時間もろくにないのに、古本屋に行くたびに食べ物の本を買いあさってくる性格をなんとかせねば・・・)。
塩について書いてある本はけっこうあったのですが、高血圧との関連で書いてある本はそれほど多くありません。
それらを年代順(本の発行年)にざっと追ってみることにします。
・成瀬宇平、野崎洋光「調味料 選ぶポイント使うコツ
この本は主に調味料としての観点から塩についていろいろ書いてありますが、最後に「食塩のとりすぎはなぜ健康によくないのか」という一節がもうけられています。
まずナトリウムの過剰摂取は浸透圧の関係から血圧を高める(血液中のナトリウム濃度が高くなると、それを薄めようとして水分が入ってきます。その分血液の総量が増えてしまうので血管内の血液の圧力が大きくなるわけです)。
疫学調査でも食塩の過剰摂取と高血圧・脳卒中に因果関係が認められる(ただし蛋白質、ビタミンをきちんと摂取すれば、多少の食塩過多でも血圧上昇は抑えられる)。
基本的に摂り過ぎはよくないが、塩分不足も問題を引き起こすので、適量を目指すこと。
・島田彰夫「食とからだのエコロジー―「食術」再考 (人間選書)
この本にも減塩指導に対する批判が書かれていますが、論拠は「食と健康を地理からみると―地域・食性・食文化 (人間選書)
・知念隆一、新美久始「常識を破壊! これが正しい自然塩の選び方
高血圧の原因が塩分過剰摂取という説ができたいきさつ:
1904年、ボージャドさんという医学博士が日本人に高血圧症が少ないことに着目し、食事調査をしたら、欧米人より塩の摂取量が比較的少なかったため、「減塩が高血圧の予防に効果がある」と唱え始める。
1953年、メーネリーさんというアメリカの高血圧学者が、ネズミに6ヶ月の間、通常の20倍の塩を与え続けたら10匹のうち4匹が高血圧症を示した。(←そんだけむちゃくちゃな量の塩を与えたのに、10匹のうち6匹は高血圧にならなかったわけね、と後に批判される)
戦後、ダールさんという人が、食事調査で塩と高血圧の関係を調べる。南日本:1日14g塩摂取、高血圧の発生率20%、東北:1日27〜28g塩摂取、高血圧の発生率40%、アメリカ:1日12〜13g塩摂取、高血圧の発生率10〜15%、アラスカのイヌイット:1日0g塩摂取、高血圧の発生率0% → 塩と高血圧には相関関係、イヌイットを見れば塩を摂らなくても生きていけることが分かる。(←後に塩摂取量の多い地域でも高血圧発生率の低い地域が見つかる)
これらのことから塩→高血圧という図式が一人歩きを始めてしまった。
1959年、青木久三さんという医学博士がメーネリーさんの実験を批判。高血圧の90%は遺伝によるもの、残り10%が他の病気にともなう合併症、あるいは環境(塩の過剰摂取、過剰飲酒、肥満、寒冷)によるものであり、塩が問題になる高血圧はごく一部(1〜2%?)と結論づける。
アメリカでも減塩神話は見直されつつあるのに、日本はなにかというといまだに減塩、減塩というのはおかしい。
塩化ナトリウムオンリーの精製塩は弊害も大きいだろうが、ナトリウム以外のミネラルをバランスよく含んでいる自然塩なら弊害は殆ど無いはず、むしろいきすぎた減塩は体を損ねるという主張が展開されます。
・秋場龍一「伝統的な健康食材の旅 (角川oneテーマ21)
いろいろな食材の生産地を訪ねて紹介している本ですが、まず第一章が「塩の旅」で粟國の塩を紹介しています。紹介の後、塩一般の薀蓄が述べられているのですが、ここにも高血圧の話が出てきます。
まず、メーネリーさんとダールさんの実験、調査については前述の本とほぼ同様(批判も含めて)。一つだけ付け加えれば、イヌイットは調味料としての塩の摂取はほぼゼロですが、魚から十分な量の塩分を摂取していることに触れています。
高血圧については、そもそも原因がきちんとまだ究明されていない。高血圧の80〜90%は本態性高血圧と呼ばれる原因不明のもの。原因不明だけど、遺伝、肥満、運動不足、飲酒、ストレス、過労、加齢、性別、人種、塩分などが複雑にからみあって起こるものらしい。減塩効果のある高血圧は全体の2〜3%に過ぎず、それ以外の高血圧患者はむしろ減塩によるデメリットを憂えた方が良い。
さらに自然塩に含まれるカリウム、カルシウム、マグネシウムなどには血圧を下げる作用があり、精製塩を自然塩に変えると高血圧が下がり、低血圧の人は血圧が上がって正常値に近くなるという報告もある。ナトリウム以外に血圧に影響を及ぼす栄養素や食品添加物などもいろいろあると言われている。と、この本もまた単純な減塩神話に大きな疑問を投げかけています。
・伏木亨「グルメの話 おいしさの科学 (サイエンティフィックアドベンチャー)
過去記事と重複しますが、高血圧の人には塩感受性の人とそうでない人がいるのに、ひとからげにして減塩を強要するのはおかしい。アメリカでは脂肪の摂り過ぎや肥満の方が原因としてはるかに問題なのに、実行困難な低脂肪食推進より減塩食推進を選んだという政治的な判断があった。なにより不必要な減塩推進で日本の食文化が失われる、損なわれることが問題だと論点が移ってゆきます(いやあ、基本的に食いしん坊なんですね、この人)。
・安保徹「自分ですぐできる免疫革命 (だいわ文庫)
こちらも過去記事と重複。現代の高血圧の原因は、殆どが悩み、ストレスなど、塩分過剰によるものはまず無い。塩については、ナトリウムは血圧を上げるけれど、マグネシウムは下げるから、精製塩ではなく自然塩を使うようにしていれば、血圧について心配することはない。
まあ、わが家にある本、というだけで偏ったところは十分にあるのかもしれませんが、これだけ見てみるとやはり少なくとも高血圧に関しては減塩神話はどこかおかしいという印象を否めません。
実験のマウスよろしく普通の食事の何十倍もの塩分を摂取していればどうなるか分かりませんが、ふだんの食事で精製塩ではなく、ミネラルバランスの良い自然塩を使い、野菜などをしっかり食べていれば、減塩に惑わされることはないのではないか・・・という気がしてきます。もちろん、運悪く塩感受性の高血圧であることが判明し、減塩しなければ血圧が下げられないというのであれば話は変わってきますが、高血圧と言われただけで効果も無いのにひたすら減塩ばかり目指すよりは、ふだんの食生活を含めた生活で他に問題はないかを掘り下げていくトータルな視野を持った方が建設的な気がします。もっともそのトータルな視野を持つことじたいがとても難しいことなのかもしれませんが。
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「高血圧」に限定すれば、塩に感受性タイプと非感受性タイプがあるのは明白ですから、「塩分過多が高血圧の原因」は、正しくもあり、間違いでもあるんでしょうね。
ただ、塩分過多が引き起こす様々な要因が、高血圧だけでなく、心血管系疾患や他の病気も誘発する可能性が高いことは明らかになってきていて、WHOも各国政府も減塩しましょう、というのは、もっともなことです。
高血圧の人は、他の病気のリスクを持っていることも多いので、医者が減塩をすすめるのも仕方ないように思います。
日本は、これだけ減塩と騒がれて、ずいぶん努力してるのに・・・と思うでしょうが、20年前と比べても、摂取量は、あまりかわっていないのです。
知らずに摂取している塩分が増え、それに気がつかないんでしょうね。(外食や食品添加物など)
塩を擁護する人たちの言い分は、塩で稼いでいるか、あるいは、おいしいもの(味の濃いもの)を食べたい、という感情論が多く、砂糖を擁護する人たちと同じ理屈があって、ちょっとどうかなーって気がします。
おいしいものを食べたいと思う気持ちは悪いことではないですが、世の中の人に塩をすすめるのは、どうかと思いますね。
地中海料理は、塩が少なくても十分においしいですし、和食もダシというすばらしいものがありますし、減塩食=不味い、ということではないんですけどねー。
塩に慣れ過ぎた舌は、一度、リセットする必要があるかもしれませんが・・・。
問題は、誰もがそういう料理を作ったり食べたりする余裕がないということかもしれません。
私も塩辛いものはある程度控えた方が良いという意見に基本的に賛成ですし、スーパーなどで売っているお惣菜などはやたら味付けが濃く(少なくともしばらく前はそうでした、最近は試してないので不明ですが)、なんとかして欲しいと思うことがあります。
例えば今までの減塩指導の流れの中では、伝統的な味噌汁や漬物が塩分というただその一点だけで悪者扱いされてきました。その結果化学調味料や合成保存料などの添加物てんこもりの減塩漬物の類が世にはびこるようなります。当然それなりの理由があって塩分がリスクになる患者に減塩指導していることも多いと思いますが、闇雲で狭視野的な減塩指導が食文化の歪みを引き起こしてきたのもおそらく事実だと思います。
その他にも例えば東北の食生活指導には蛋白質やビタミン摂取も含まれていたのに減塩だけがことさら強調して世間には伝えられたとか、塩分には体を温める効果があるので地域によって必要な塩分量はどうしても変わってくるとか、いきすぎた減塩は減塩症を引き起こし、塩分の過剰摂取に劣らず問題であるとか、いろいろなことが書かれていました(「自然塩の選び方」は塩屋さんが書いたものなのでその分考慮する必要があるかもしれませんが、他の本の著者は塩との利害関係はおそらく無いと思います。少なくとも利害論、感情論に流された記述ばかりでなく、拝聴するに値するものが多いと私は思いました。医学者である安保さんが現場の医療に疑問を呈しているのは、それだけの実態があるからではないかと読む側としては思うわけです)。
私が読み取った中には正しい内容もあるかもしれないし、将来的に誤りと分かることも出てくるかもしれません。それはでも減塩の理屈に関しても言えることだと思います。
今回は高血圧に関してのみの記述でしたが、胃癌についてちょっとぐぐってみたら、塩分過剰摂取と胃癌とは相関関係があるらしいというのが現在の定説のようですね。でもそのメカニズムについては分かっていないらしいですね。塩の総量が問題になる、いや塩分濃度が問題になる、塩だけでなくピロリ菌の存在も問題だ、読んでると頭がぐるぐるしてきます。
これらのさまざまな仮説も将来的に誤りと分かるものが出てくるかもしれません。
個人的な意見ですが、食生活はかなりトータルに見た方がいいと思っています。
もちろんトータルな見方をするためには、今までに分かったさまざまなことをできるだけ参考にすべきですが、あまり細かいことにとらわれてはいけないという気がします。細かいことにとらわれすぎてストレスを抱え込むとそのストレスが体に良くないし、全体が見えにくくなります。それに食生活に関する指針なんて時代とともに変わります。10年前はああ言われていたけど実は間違いだった・・・なんてのはゴマンとあります。最終的に頼りになるのは個人の直感かもしれません。その直感も磨かなければうまく働かないだろうし、人によって直感の指し示す方向は全然違っていたりもするでしょう。でも一億総何が何でも減塩運動でがんじがらめにするよりもその方がいいと思います。そしてそのためには一般論と相反する説も抹殺すべきではないと思っています。
私の方こそ長くなってしまってごめんなさい。なかなか思ってることをうまくまとめられなくて・・・。